
■質問者
すぎむら先生!
亡くなった夫が愛人に全財産を遺贈していたり
遺言書の中で愛人に全財産を譲るように書かれていたりした時
残された妻や子供はどうなるのですか?
■すぎむら先生
愛人は相続人ではありません。
亡くなった方はその方に財産を残したかったのでしょう。
感情論を抜きにして法律を脇に置けば
そのようにしたかったという意向は理解できます。
しかし法律上は相続人ではない方への遺贈ということになります。
相続人ではない受遺者に対して
亡くなった人が遺産を渡すことを遺贈と言います。

本来なら配偶者や子供が相続できたはずの財産を
夫が何らかの事情で愛人に全財産を遺贈したいと遺言書に書いていた場合
その遺贈自体は有効です。
これは亡くなった方の意向ですから
遺言書によって自分の意思を残しておけば基本的には尊重されます。
ただ残された相続人からすれば
そのような事態は納得できないという感情や権利の問題が生じます。
遺言書がある場合に認められるのが遺留分という権利です。
遺留分とは相続人である法律上の利害関係者
つまり相続財産に対する権利者が最低限請求できる権利のことです。
これは法律に則って愛人に対して請求できます。
ただし期限があり
相続の開始と自分が権利を持っていることを知った時から
1年以内に請求しなければなりません。
愛人に対してその請求をすれば
愛人側は遺留分を侵害している部分について支払いをしなければなりません。
法律の改正により
遺留分は金銭債権として明文化されたため
お金で返さなければならないという流れになります。
■質問者
これにより最低限の遺留分は取り戻せる可能性があるのですね。
■すぎむら先生
ただ遺留分の計算は非常に複雑で
いくらになるのかを算出するのが大変です。
特に土地や建物などの不動産は
固定資産税の納付書に記載された評価額と
実際に売却する価格である時価や取引相場が大きく異なります。
不動産をいくらと評価するかによって
請求できる遺留分の金額も変わってきます。
そこについてはかなり揉める要素が大きいです。

他にも自社株など誰が見ても明らかな価格設定ができない資産は多く存在します。
例えばスマートフォン1つにしても
中古の状態での時価を特定するのは難しいものです。
このように時価がベースになる点が1つの障壁となります。
また生前贈与が含まれる場合もあります。
例えば配偶者がおらず子供2人が相続人のケースで
1億円の財産が残っていれば法定相続分は2分の1ずつの5000万円ずつです。
その半分である2500万円が遺留分となります。
全財産を長男に相続させるという遺言書があっても次男は2500万円を請求できます。
しかし生前に長男へ1億円を頻繁に贈与していた場合
合わせると2億円の財産があったことになります。
このような不公平な財産の渡し方は特別受益と呼ばれ 遺産の前渡しとみなされます。
特別受益は遺留分の計算上 加算して考えることになっています。
しかしどこまでを特別受益とするかの議論が始まると
過去の出来事を持ち出し合い結果として揉めるケースが増えてしまいます。
そもそも遺留分の話が出ている時点で既に紛争状態にあると言えます。
では愛人への贈与はどうなるのかという点ですが
原則として愛人への贈与は特別受益には該当しません。
特別受益の対象者はあくまで相続人だからです。
相続人ではない人への贈与が
特別受益として認められることはおそらくないでしょう。

そのため生前に愛人へ多額の資金を渡しているケースは
相続人にとって不利に働く危険があります。
ただ今お話ししたのはあくまで法律の条文上の原則論です。
実際には裁判になると この原則が覆ることもあります。
条文や法律はあくまで基本であり
裁判所が全体を総合的に勘案して妥当な結論を導き出すのが判例です。
極端な事例であれば
特別受益の趣旨を愛人への贈与に適用するような判断もあり得るかもしれません。
また原則としても相続開始前1年間の贈与や
相続人以外への贈与も遺留分の計算対象に含まれる場合があります。
非常に複雑な問題ですので専門家を交えてしっかりと話し合ってください。



