不動産の共有名義が、トラブルの元になる理由
相続の相談で最も多いテーマのひとつが、「実家の不動産をどうするか?」という問題です。
特に注意が必要なのが「共有名義」の不動産。
相続をきっかけに、兄弟姉妹や親族で共有になったまま放置されているケースは少なくありません。
しかし、この”共有”こそが、将来的に大きなトラブルの火種になるのです。
社会問題化する所有者不明土地
国土交通省の調査によると、全国で所有者不明の土地は年々増加しており、その多くが共有名義のまま管理が進まないことが原因とされています。
その面積は九州本島を上回る約410万ヘクタールに達しており、経済的損失は年間約2,000億円とも試算されています(国土交通省「所有者不明土地問題研究会報告」より)。
つまり、誰かの「うちは兄弟で仲がいいから大丈夫」という油断が、社会全体の問題にまで発展しているのです。
共有名義とは
共有名義とは、ひとつの不動産を複数の人が共同で所有している状態を指します。
たとえば、両親が亡くなり、兄弟3人が法定相続分どおりに登記を行えば、それぞれが3分の1ずつの持分を持つ「共有」になります。
見た目は公平に見えますが、ここに落とし穴があります。
共有不動産の最大の問題
共有不動産では、誰かひとりの意思で勝手に売ることも貸すこともできないという点です。
売却や賃貸など、財産の重要な処分には原則として共有者全員の同意が必要です。
もし一人でも反対すれば、たとえ他の共有者が望んでも取引は成立しません。
実際、「一人が海外に住んでいて連絡が取れない」「相続人が増えて誰が所有者なのか分からない」といったケースでは、名義変更も売却もできず、土地が”宙に浮いた状態”になることが多いのです。
費用負担の問題
さらに、固定資産税の支払い義務や建物の維持管理の負担も、共有者それぞれに発生します。
誰がどの費用を負担するか、取り決めが曖昧なまま年月が経つと、税金の滞納や建物の老朽化など、別の問題にも発展します。
こうした状態になると、もはや家族だけで解決するのは難しくなり、裁判所での共有物分割請求訴訟などに発展することもあります。
共有トラブルを防ぐには
では、こうした共有トラブルを防ぐには、どうすればよいのでしょうか。
理想は「共有にしない」
第一に、「共有にしない」ことが理想です。
遺産分割協議の段階で、できる限り単独名義にするよう話し合っておくこと。
不動産を売却して現金化し、分けやすい形にすることも有効です。
すでに共有状態になっている場合は、「共有物分割協議」や「持分譲渡」などを利用して早めに整理することが大切です。
民事信託(家族信託)の活用
もう一つの有効な方法が、「民事信託(家族信託)」の活用です。
たとえば、実家や土地を信託財産として、信頼できる家族を受託者に指定すれば、受託者名義で一元管理が可能になります。
これにより、複数人の共有者が個別に判断する必要がなくなり、相続や活用の際の手続きがスムーズになります。
実家を将来的に売却するか、貸すか、残すか――その判断も、あらかじめ契約で方向性を決めておくことができるのです。
不動産は「資産」であると同時に「責任」でもあります。
相続の際に安易に共有にしてしまうと、その後の世代まで問題を引き継ぐことになります。
共有は”平等”に見えて、実は”縛り”です。
早い段階から、弁護士・司法書士・相続コンサルタントなどの専門家に相談し、最適な形での承継や整理を検討しておくことが、家族を守る最良の対策になります。
出典:
国土交通省「所有者不明土地問題研究会報告」
https://www.mlit.go.jp/common/001281298.pdf
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