「介護した長男に多く残す」は本当にできる?
相続の相談でよく聞かれる言葉の一つに、「一番面倒を見た長男に多く残してあげたい」というものがあります。
親の立場からすれば、長年の介護や支援への感謝を形にしたいという思いは自然なことです。
しかし実際の相続では、その気持ちをそのまま”財産の配分”に反映することは簡単ではありません。
法定相続分とは
まず理解しておきたいのは、民法で定められた「法定相続分」という考え方です。
遺言がない場合、配偶者と子どもが相続人であれば、配偶者が1/2、子ども全員で残り1/2を等分します。
つまり、原則として子どもたちは”平等”に相続する権利を持っているのです。
介護した子に多く残す方法はある
では、「介護を担ってきた長男に多く残す」ことは不可能なのでしょうか。
結論から言えば、方法はあります。
その代表が遺言書と生前贈与です。
遺言書の活用
遺言書は、本人の意思を明確に残す手段として最も有効です。
たとえば「長男に自宅を相続させる」といった内容を公正証書遺言に記載しておけば、法的効力を持って実現できます。
ただし、他の相続人には「遺留分」と呼ばれる最低限留保される権利があるため、それを侵害する内容にしてしまうと、後に「遺留分侵害額請求」が行われる可能性があります。
したがって、遺言書の作成時には、他の相続人の権利とのバランスを踏まえた設計が重要です。
生前贈与の活用
もう一つの方法が、生前贈与です。
介護や生活支援を担った子どもに対し、生前のうちに感謝の気持ちとして財産の一部を贈与することができます。
ただし、相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算されるため、節税を兼ねる場合は早めに行う必要があります。
また、他の家族への説明なく進めると「不公平だ」と不信感を招くこともあるため、事前の話し合いが欠かせません。
生命保険の活用
さらに、見落とされがちですが生命保険の活用も有効な選択肢です。
生命保険金は、受取人を指定しておけば原則として相続財産に含まれず、他の相続人の権利を侵害せずに渡すことが可能です。
特に、介護を担ってくれた子を保険金受取人に指定しておくことで、感謝の気持ちを確実に形にできます。
また、生命保険には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠もあり、相続税の負担を抑えつつ、すぐに現金として受け取れる点でも実用的です。
相続発生後すぐに資金が必要になる場合にも、納税や葬儀費用の準備として大きな安心につながります。
家族の理解が欠かせない
一方で、こうした対策を講じる際には、家族の理解が欠かせません。
「なぜ長男に多く残したいのか」「どのような貢献があったのか」を、他の家族にもきちんと説明しておくことで、感情的なわだかまりを防ぐことができます。
また、寄与分の主張や民事信託(家族信託)の活用など、状況に応じた選択肢を検討することも大切です。
そして、これらの手続きや制度を活用する際は、弁護士・司法書士・相続コンサルタントなどの専門家に相談しながら進めましょう。
法律・税金・家族関係のすべてを見渡して設計できる専門家のサポートが、円満な相続の第一歩になります。
出典:
法務省「民法(相続関係)改正に関する資料」
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00074.html
介護貢献への配慮をお考えの方へ
介護を担った子への相続配分は、法律・税金・家族感情のバランスが重要です。当事務所では、円満な相続を実現するための最適な方法をご提案いたします。お気軽にご相談ください。


