民事信託(家族信託)って何?遺言や成年後見との違いを整理
日本では2025年、65歳以上の高齢者が人口の約30%を超える「超高齢社会」に突入します。
そして、認知症の高齢者は約700万人に達すると推計されており、これは高齢者の約5人に1人にあたります(内閣府「令和6年版高齢社会白書」より)。
こうした背景のなか、「財産をどう守り、誰に任せるか」という問題が、今やすべての家庭に共通する課題となっています。
その解決策として近年注目を集めているのが、「民事信託(家族信託)」です。
とはいえ、「遺言や成年後見とどう違うの?」という声も多く聞かれます。
ここではその基本的な仕組みと違いを整理してみましょう。
民事信託(家族信託)とは
まず、民事信託(家族信託)とは、本人(委託者)が信頼できる家族など(受託者)に、自分の財産の管理や運用を託す仕組みです。
信託の対象となる財産を「信託財産」と呼び、預金・不動産・有価証券などを契約に基づいて名義変更し、受託者が管理します。
たとえば父を委託者、子を受託者として信託契約を結び、父の自宅や預金を信託財産とすれば、将来父が認知症などで判断能力を失っても、子が代わりに契約・支払い・運用などを行えるようになります。
つまり、「財産を凍結させずに管理を継続できる」というのが最大の特徴です。
遺言・成年後見との違い
一方で、遺言は「亡くなった後」に効力を発揮する制度です。
生前に内容を決めておけるものの、本人が生きている間は効力がありません。
そのため、認知症などによって判断力が低下した後の財産管理には対応できません。
また、成年後見制度は「判断能力がすでに失われた後」に裁判所が後見人を選任して管理する仕組みです。
ただし、後見人の判断には家庭裁判所の許可が必要で、本人の財産を積極的に活用したり運用したりすることは難しいのが実情です。
つまり、
- 遺言は「死後の財産承継」を目的とした制度
- 成年後見は「判断力を失った後の保護」を目的とした制度
- 民事信託(家族信託)は「元気なうちに決めておける柔軟な財産管理の仕組み」
というふうに、それぞれカバーする時期と目的が異なります。
民事信託(家族信託)のメリット
民事信託(家族信託)のメリットは、なんといっても自由度の高さにあります。
受託者を家族や信頼できる人に指定できるうえ、信託契約の内容も個々の家庭の事情に合わせて設計できます。
また、財産を「受託者名義」に変更しておくことで、将来の相続におけるトラブル防止にもつながります。
たとえば、共有名義の不動産を信託財産にまとめておくことで、後の相続手続きがスムーズになるケースも多いのです。
注意点と専門家の活用
もちろん、信託契約には注意点もあります。
たとえば、契約内容が曖昧だと家族間で「どこまで任せるのか」が不明確になったり、信託登記や信託口口座の開設など、専門的な手続きが必要になることもあります。
そのため、実際に導入する際には、相続コンサルタントなどの専門家に確認しながら進めることが望ましいでしょう。
これからの時代、民事信託(家族信託)は「お金持ちの相続対策」ではなく、「誰もが備える生活設計の手段」です。
遺言や成年後見ではカバーしきれない”生きている間のリスク”に備えるために、早い段階から検討しておく価値があります。
出典:
内閣府「令和6年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/index.html
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