認知症になる前に「財産の管理」を考える時代
厚生労働省の推計によると、2040年には認知症の高齢者が約584万人、軽度認知障害(MCI)の高齢者が約613万人になると見込まれています。
合わせると約1,200万人。高齢者のおよそ3.3人に1人が、認知症またはその予備軍になる時代が近づいています。
この数字を見ると、認知症は一部の家庭だけの問題ではありません。
誰の家庭にも起こり得る、とても身近な問題として考えておく必要があります。
認知症になると何が困るのか
認知症で特に問題になるのが、「財産管理」です。
たとえば、親名義の預金口座がある。
親名義の不動産がある。
施設入所や介護費用のためにお金が必要になる。
このような場面で、本人の判断能力が低下していると、預金の引き出しや不動産の売却が難しくなります。
家族だからといって、自由に親の財産を動かせるわけではありません。
結果として、
・介護費用が払えない
・施設入所の資金が準備できない
・空き家になった実家を売却できない
・不動産を活用できない
といった問題が起こります。
「家族だから大丈夫」は通用しない
多くの方が誤解しているのが、「親子だから何とかなる」という考え方です。
しかし、金融機関や法務局、不動産会社などは、本人の意思確認を非常に重視します。
たとえ子どもであっても、本人の判断能力が確認できなければ、預金の解約や不動産の売却は進められません。
これは、本人の財産を守るために必要な仕組みでもあります。
ただ、家族からすると、必要なお金が使えないという現実的な問題になります。
法定後見制度だけでは限界もある
すでに認知症が進行した後に利用する法定後見制度という仕組みがあります。
家庭裁判所が後見人を選任し、本人の財産管理を行う制度です。
もちろん必要な制度ではありますが、本人の財産を守ることが中心となるため、柔軟な財産活用が難しい場面もあります。
たとえば、相続対策のための贈与、不動産活用、家族の事情に合わせた資産組み替えなどは、簡単には進められません。
つまり、認知症になってからでは、選択肢が大きく限られてしまうのです。
元気なうちに使える民事信託(家族信託)
そこで注目されているのが、民事信託(家族信託)です。
民事信託(家族信託)は、本人が元気なうちに、信頼できる家族などへ財産管理を託す仕組みです。
たとえば、父を委託者、子を受託者として信託契約を結び、預金や不動産を信託財産として受託者の名義で管理します。
このとき、本人を利益を受け取る人(受益者)のままにしておけば、名義が変わっても贈与税はかかりません。
こうしておけば、将来、父の判断能力が低下した場合でも、受託者である子が契約内容に基づいて財産を管理・処分しやすくなります。
介護費用の支払い、施設入所資金の捻出、実家の売却や賃貸活用なども、事前に設計しておくことができます。
財産管理は「相続前」から始まっている
相続というと、亡くなった後の手続きだと思われがちです。
しかし実際には、亡くなる前の財産管理こそ重要です。
認知症になって財産が動かせなくなると、本人の生活にも、家族の介護にも大きな影響が出ます。
そして、そのまま相続を迎えると、使途不明金や不動産処分の遅れなど、別のトラブルにつながることもあります。
だからこそ、元気なうちに、
・どの財産を誰が管理するのか
・介護費用をどう準備するのか
・実家を将来どうするのか
を整理しておくことが大切です。
認知症対策は家族への思いやり
認知症対策は、本人のためだけではありません。
残される家族、介護を担う家族の負担を減らすための準備でもあります。
「まだ元気だから大丈夫」ではなく、元気な今だからこそ準備ができます。
財産の管理方法に不安がある場合は、相続コンサルタントなどの専門家に相談し、自分の家庭に合った形を早めに考えておきましょう。
出典
厚生労働省「認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」
https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf
厚生労働省「認知症施策推進基本計画」
https://www.mhlw.go.jp/content/001344090.pdf
