認知症になる前に「財産の管理」と「介護支援」を考える時代
― 民事信託と生活支援サービス ―
深刻化する認知症と介護の現状
高齢化が進む今の日本において、避けて通れないテーマの一つが「認知症」と「介護」の問題です。
厚生労働省や民間の推計によれば、現在すでに65歳以上の約4人に1人が、認知症もしくはその予備軍とされています。しかもこれは”いま現在”の話。将来的にはさらに深刻化すると見られており、2045年には65歳以上の人口の半数が、そして2065年には実に8割近くが、認知症当事者またはそのリスクを抱える層になるという予測すら出ています。
また、認知症だけではありません。介護が必要な高齢者、つまり「要介護認定者」も年々増加し、生活や療養に対する支援ニーズが全国で急速に高まっています。
現実的な課題:供給不足の深刻さ
しかし、こうしたニーズに対して、供給がまったく追いついていないのが現実です。
たとえば、親が遠方に暮らしている。子どもは仕事や育児で忙しく、頻繁に実家に通うことは難しい。近所に頼れる親族もおらず、結局は本人が不自由な生活を強いられてしまう——そんな話を、私たちは日々の現場で何度も耳にします。
公的な介護保険サービスももちろん利用できますが、ヘルパーが週に1〜2回訪問するだけでは、日々の買い物や通院、家の掃除などを十分にカバーすることはできません。
制度の範囲内でできることには限界がある。それが現実です。
見逃せない「財産の管理」問題
加えて、もう一つ見逃せないのが「財産の管理」に関する問題です。
認知症進行時の財産凍結リスク
たとえば、認知症が進行してしまい、本人の意思確認ができなくなった場合。いくら本人名義の預金口座にお金があっても、それを下ろすことも振り込むこともできなくなってしまいます。
よくあるのが、家族が本人のキャッシュカードで勝手にお金を引き出してしまうケース。生前は「親のため」と思ってやっていたことが、死亡後の相続の場面で「使い込みではないか」と争いになることも多いのです。
注目される2つの解決手段
こうした時代背景のなかで、いま注目されているのが、次の2つの手段です。
- 民間による「シニアの生活支援サービス」
たとえば、「まごころサポート」のように、20分1,000円ほどの低価格で、自宅の掃除、洗濯、買い物代行、通院付き添い、草抜き、スマホやパソコンの操作支援まで、幅広いサポートを受けられるサービスが全国展開されています。施設入所時の身元保証まで対応しているところもあり、子どもが遠方にいても安心して任せられる環境づくりが可能です。 - 「民事信託(家族信託)」による財産管理
元気なうちに本人(たとえば父)が信頼できる人(たとえば子)に対し、財産の管理・処分を託す契約を結んでおくという仕組みです。父を「委託者」、子を「受託者」とし、管理を任せる財産(不動産や預貯金など)を「信託財産」としてあらかじめ決めておきます。
家族支援の重要性と限界
もちろん、家族の支援が一番心強いのは間違いありません。
ですが、物理的・経済的に難しい状況で無理をしてしまうと、本人にも家族にも負担が大きくなるばかりです。「家族だけに頼らない」体制を整えておくことが、これからの時代には必要不可欠です。
民事信託の具体的な仕組み
- 不動産を信託する場合は信託登記を行う
- 金銭を信託する場合も専用の信託口口座を開設する
- 委託者、受託者、信託財産を明確に定める
こうしておけば、たとえ父の意思能力が後年になって失われたとしても、受託者である子が裁判所の許可などを経ることなく、日常の生活費や介護費用の支出、施設への入所契約、信託財産の売却などをスムーズに進めることが可能になります。
つまり、財産が「凍結されない仕組み」をあらかじめ作っておける、ということです。
まとめ:早めの準備が重要
高齢期に入ったら、介護と財産の問題はワンセットで考える時代です。
「まだ元気だから」と先送りせず、生活支援の準備とあわせて、財産の管理方法も見直しておくこと。それが、自分自身の安心と、家族への思いやりにつながります。


